感想あるいは通過点

優しい嘘と化けの皮の下

寂しがり屋しかいないんだな

 ずーっと愛に飢えてる。家族全員で。

 私の母親はとある配信サイトにハマっている。のめりこんでいる。家族の構成員として最低限の肉体労働だけやって、あとはそこで星を集めては配信者に投げている。そこはとても視聴者と配信者の距離が近いから、どっぷり共依存を起こしてしまってるのが端から見てもわかる。

 妹は母が配信サイトにハマってから母の愛を恋しがり、その反動として与えられたお小遣いの大部分をゲームの課金に使っている。課金したいからではない。寂しいから課金している。変な気を起こさないように、と妹自身が風呂場に妹を隔離した時に、ドア越しに聞いた。

 母にもあったし、私にもあった症状だ。私達家族は、寂しくなると物を増やしたり金銭を消費することでそれをどうにかしようとする。愛で物理的に心の穴を埋めようとするのだ。その証拠に、母は配信サイトにのめり込んでから買い物依存症がぴたりと止んだ。メルカリに張り付いて雑誌を買いあさるとか、雑誌についている付録を小学生が修学旅行で荷物を抱えるみたいに運んで友人にばらまいたりしなくなった。別の方法で心の穴を埋めることに成功したからだ。おかげ様で同じ空間にいるのに意思疎通が取れない。耳にイヤホンが刺さってるから。配信者が頑張るから母も頑張る。星を集める。眠りこけて握ったコップを傾けてしまって床を酒でびしゃびしゃにする程度には。

 私はもう何年も、恋愛とやらに近づいたり離れたりしている。こびりついた私のトラウマの大半は、もうそこで新しく生まれたものばかりだ。痛くて苦しくて悲しいのに、目の前の愛しい“はず”の誰かは何もしてくれないだとか。結局穴だけだったとか。価値観も性格も趣味もそれでころころ変えた。

 妹は元々引きこもりだったし、他者交流に対して積極的でない。だから私や母のように、他者を巻き込んで何か起こしたりしない。ひたすら溜め込んで、いきなり爆発させる。その度に母はどうして私を責めるのと、妹を表面だけなだめるのだ。手元では忙しく画面をタップして星を投げている。イヤホンでは、母のHNを配信者が呼んでいることだろう。何がいいんだと言えれば良かったのだが、わからなくもないのが心境的に複雑だ。即物的な愛だ。誰かのために頑張って、お礼を言ってもらう。

 妹の世界はこの家族が殆どをしめている。外でたくさん痛い目にあってきたし、何より“そういうこと”のおかげで家族に対する信頼は抜群に高い。依存先には家族がちょうどよいし、それ以外の選択肢が思い浮かばないのだろう。私はかなり高頻度で恨みつらみを吐いているので除外される。父親はそもそも家にいることを好まず外にばかり出ているし“そういうこと”の汚れ仕事をしていないので眼中にすら入らない。

 残ったのは母。だから母に依存する。母に愛されることが全てになる。私達には反抗期が存在しなかった。おそらく妹は、きっと母の子どものままなのだ。盲目的に愛着を欲する。たとえ母にそれが出来なくても。

 皆ほしいものは同じだ。愛されたい。一番になりたい。優先されたい。でも私達の執着の矢印は全員違う方向を向いている。相互的になるのを嫌悪してさえいる。経験で成し得ないことを知ってしまっているんだろう。

「お母さんが構ってくれなくて寂しい」「寂しいと課金をしたくなってしまう」「そして今、その課金額が膨れ上がってきているのが嫌だ」

「課金したいと思えるだけ元気ってことじゃない」

 一言ひとことを繋げればわかる事実さえ見ようとしない。期待なんてしていなかったが、見ていられなかった。寂しいと呻く娘に、「自分がしたくないからしない」と正面切ってねじ伏せていた。でも私だって愛したくはないし出来ないから、母にとっての配信サイトにはならないし、妹にとっての母になろうとはしない。つらいよね。そういうだけ。

 ほんとうに不器用だね、私達は。私はそろそろ諦めてしまいそうだよ。楽になれるならそれでもいいかなって。でもそうすると何も感じ取れなくなる。だからどうしようかなと、うすらぼんやり考えている。全員地獄にいるんじゃ、助かりようなんてないじゃないか。